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釧路地方裁判所帯広支部 昭和38年(ヨ)30号 判決 1964年3月31日

申請人 葛西弘

被申請人 日本甜菜製糖株式会社

主文

本件申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

事実

第一、申請人の求める裁判

(1)  申請人が被申請人に対して雇傭契約上の権利を有することを仮りに定める。

(2)  被申請人は、申請人に対し、昭和三八年一月一九日から本案判決確定に至るまで一日金五二〇円の割合による金員を毎月末に支払え。

(3)  申請費用は、被申請人の負担とする。

第二、被申請人の求める裁判

主文と同旨

第三、申請の理由

(一)  被申請人は、甜菜製糖を業とし、肩書地に本店、帯広市などに工場を有する会社である。

(二)  申請人は、昭和三七年三月五日以降被申請人会社帯広製糖所に電気機械工として雇傭されていたところ、同年一月一八日被申請人から企業合理化のための人員整理という理由で同月二四日限り解雇する旨口頭により通告を受けた。

(三)  しかしながら、右の解雇はつぎのような理由により無効である。

(1)  被申請人は右の解雇にあたり、三〇日前に解雇予告をせず、また、三〇日分以上の平均賃金の支払いをしていないから、右解雇は労働基準法第二〇条第一項に違反する。

(2)  申請人は、日本民主青年同盟(以下単に民青という)に加入し、その同盟員として活動していたものであるが、被申請人は、民青の組織およびその思想を嫌悪し、申請人が民青の同盟員であり、かつ、その信条を有することを理由に、申請人を企業から排除するため解雇したものであつて、右解雇は、申請人の思想、信条を理由とし、ことさら他の従業員と区別して取扱つた差別待遇であり、憲法第一四条第一項、第一九条および労働基準法第三条に違反する。

(3)  被申請人は企業合理化による人員整理の必要を本件解雇のおもてむきの理由としているが、当時申請人以外に解雇されたものはいないばかりでなく、被申請人は申請人を解雇した直後申請人の通学する学校に一名採用の申込をしているのであるから、右の解雇理由は根拠を欠き、結局本件解雇は、客観的にみて、妥当な解雇理由がないのになされたもので、民法第一条第三項に違反し、解雇権の濫用である。

(四)  右解雇当時申請人は被申請人から一日金五二〇円の賃金を支給されていた。

(五)  そこで、申請人は、解雇無効確認の訴訟を提起すべく準備中であるが、労働者であつて、被申請人から支払われる賃金のみで生活を維持していたのであり、このまま賃金が支払われない状態で本案判決を待てば、全く生活を破壊され、回復できない損害を蒙ることになる。そこで、本件申請に及んだ。

第四、申請の理由に対する答弁並びに抗弁

(一)  申請人の主張事実中、(一)の事実は認める。(二)のうち、通告の趣旨、内容を否認し、その余は認める。(三)のうち、申請人に対し、三〇日前に解雇予告せず、また、三〇日分以上の平均賃金の支払いをしていないことは認めるが、本件は後に述べるように解雇ではなく、期間満了により雇傭契約が終了したのであるから、右のような手続を要しない。申請人が民青に加入していたことは不知、その余の事実はすべて否認する。(四)の事実は認めるが、(五)の事実は否認する。

(二)  (1) 被申請人会社帯広製糖所は、農家が春播種し、秋収穫した甜菜糖原料を製糖する季節作業を行い、多少期間に長短はあるが、例年概ね一〇月上旬ないし下旬その作業を開始し、一月下旬ないし二月初旬その作業を終了している。そして、右製糖期には、被申請人会社の正規従業員のみでは作業の遂行が不可能であるから、多数の臨時員を季節工として採用し、正規社員の補助的作業に従事せしめ、製糖作業終了と同時にこれら臨時員との雇傭関係を終了せしめているのであるが、製糖終了後(非製糖期)においても、次期製糖期のための機械装置の修繕、整備等のため若干名の臨時員を雇傭しているのが実情である。

(2) 申請人は、昭和三七年非製糖期における修繕作業のための臨時員として、雇傭期限を同年三月五日から同年九月三〇日までとするが、作業が延引した場合には作業終了までその期間を延長する約束で、被申請人と雇傭契約を締結し帯広製糖所の工務課機械係の電気掛臨時員の作業に従事するようになつたものであるが、同年九月三〇日雇傭期限到来当時電気掛の修繕作業が延引したため、申請人の同意を得て同年一〇月一七日まで雇傭期間を延長した。ところが、これよりさき、被申請人が次期製糖期における季節臨時員を募集したところ、申請人も右臨時員に応募したので、被申請人は同年九月二七日雇傭期間を次期製糖期間、すなわち、同年一〇月一八日から昭和三八年一月三一日までと予定し、この予定期限の前後を問わず、製糖作業が終了したときには、雇傭関係を終了せしめる約束のもとに申請人と雇傭契約を締結し、前記非製糖期に引続き電気掛として、製糖期における電気機械の修繕、掃除、保守、点検等の補助作業に従事させていた。

(3) ところで、帯広製糖所においては、昭和三八年一月一八日製糖作業が同月二四日終了する見通しがついたので、申請人を含む製糖期季節臨時員に対し、同日までで期間満了により雇傭関係が終了する旨通告し、失業保険その他社会保険関係の手続をとつたところ、申請人も右のとおり雇傭関係が終了することを十分承知したうえ、同日までの賃金を異議なく受領したのであつて、申請人との雇傭関係は、同月二四日製糖作業の終了とともに、期間の満了により消滅するに至つたものである。

(4) なお、右製糖期の季節臨時員で雇傭期間の満了により退職したものは、同年一月二一日七九名(男七八名、女一名)、同月二四日一九三名(男一二一名、女七二名)合計二七二名であり、申請人のみを特に差別して解雇したのではない。

(5) 以上の次第で、申請人の本件仮処分申請は、理由がなく、却下せらるべきものである。

第五、被申請人の抗弁に対する申請人の答弁と再抗弁

(一)  申請人が昭和三七年三月五日期間を同年九月三〇日までの非製糖期間中として雇傭され、帯広製糖所の工務課機械係電気掛臨時員として作業に従事していたことは認めるが、同日以後同年一〇月一七日まで申請人の同意のもとに雇傭期間が延長されたこと、申請人が被申請人主張の頃その主張のような製糖期だけの季節臨時員として雇傭され、その雇傭関係が期間満了により終了したとの被申請人の主張事実は否認する。

(二)  (1) そもそも、被申請人会社に雇傭される臨時員には、製糖期にかぎつて製糖業務に従事する純然たる臨時員(季節臨時工)と、製糖期、非製糖期を問わず、工場の操業ないし維持のため必要な恒常的業務に従事し、長期に雇傭されるにもかかわらず、期間の定めのある雇傭契約を結んでいるいわゆる臨時員の二つがあり、前者は季節的業務である製糖の終了、いいかえれは、製糖期の終了とともに雇傭関係も終了し、引続いて雇傭関係を生じないのに対し、後者は期間終了後直ちに雇傭契約が更新され、製糖期と非製糖期における業務の内容においては、多少異なりながらも大綱においては同一の業務を継続して遂行して行くものであつて、両者は、雇傭期間の定めがある点において形式上同一であるが、実質上雇傭形態ないし雇傭関係を異にしているものである。

申請人は、昭和三七年三月五日非製糖期の臨時員として採用されて以来、終始工務課機械係電気掛に配属されていたが、同掛は主任を除き社員三名臨時員四名で構成され、非製糖期においては、工場内諸機器の整備、電灯設備の新設、構内外線の補修などに当つていたが、社員と臨時員の作業内容は全く同一でなんら異るところがなく、申請人も就職後約一カ月を経過した頃には、モーターの分解掃除を責任をもつて行い、外線作業においても柱上の架線作業その他補修全般に亘り正規員と区別なく行い、スイッチなどの機器整備においては社員一名と組になつて同一の仕事に従事し、昭和三七年六月に開催された社内の計器講習会には工務課の指名により社員とともに受講したこともあつたのである。つぎに、製糖期における同掛の業務は、主として、製糖工程の諸機器の点検、故障修理等であつたが、一二時間交替夜間三名昼間四名の勤務体制の下にあつて、臨時員のみの配置になることは常であり、緊急な故障の発生したときにも臨時員のみで措置していた。このように、電気掛の臨時員の業務内容は、被申請人の主張するように、単に正規社員の補助的作業に限られていたのではなく、純然たる季節工の行う業務内容とその性質を異にしていたものであつて、申請人は前述のいわゆる恒常的業務に従事する臨時員に該当する。

(2) ところで、申請人は、右のとおり恒常的業務に従事する臨時員として雇傭されたが、その後雇傭期間の満了日である昭和三七年九月三〇日以後、期限を徒過して引続き雇傭を継続されたのであるから、前記のような雇傭の特質上、申請人と被申請人間には、同年一〇月一日以降、期間の定めのない雇傭契約が締結されたものというべきである。もつとも、申請人は、同年九月二七日形式的に被申請人主張のような製糖期における雇傭契約を締結したことはあるが、この契約は、全く便宜的なものであつて、右のとおり期限の定めのない契約が締結された以上、法律上の効力を有しないものといわなければならない。

(3) 仮りにそうでないとしても、九月二七日締結された雇傭契約の終期は、昭和三八年一月三一日までであつて、もし、右雇傭契約における期間が、被申請人の主張するように、次期製糖期の終了までと定められたものとすれば、このような不確定期限は、経済上の強者である使用者が雇傭契約において一方的に期限の到来を定めたものとして、無効であり、同年一月一八日被申請人のなした通告は解雇に該当するものである。

(4) 仮りに右の主張が理由がなく、申請人の雇傭期間が同年一月二四日を以て満了したものとしても、申請人被申請人間の雇傭契約はつぎの理由によつて当然更新さるべきものである。すなわち、さきに述べたように、申請人は、純然たる季節工ではなく、いわゆる恒常的業務に従事する臨時員として雇傭されたものであるが、このような臨時員については、特別の事情のない限り、労働契約が引続いて更新されるという慣行がある。現に申請人の職場であつた電気掛には更新を重ねて三年にわたり雇傭されている臨時員がいるし、また、昭和三八年一月にも同掛の臨時員は申請人を除き全員が更新されている。被申請人は、同月退職したものが申請人以外に二七二名ある旨主張しているが、これらの者はすべて季節工たる臨時員で、申請人のように恒常的業務に従事する臨時員ではない。このように、雇傭契約が引続き更新されるという慣行がある以上、申請人には更新を受ける当然の期待権があるか、もしくは、被申請人との間に同一の労働条件で当然契約が更新される旨の暗黙の合意が成立していたものである。しかるに、被申請人は、すでに述べたような申請人の思想信条を理由とし、もしくは、なんらの理由もなく、申請人との雇傭契約の更新を拒絶したものであつて、かかる更新拒絶は、憲法に違反し、権利の濫用として許されず、申請人被申請人間にはなお雇傭関係が継続しているものというべきである。

第六、申請人の再抗弁に対する被申請人の答弁

(一)  臨時工の本質は、その従事する作業が恒常性を有するものかどうか、あるいは、その技術が本工のそれと差があるかどうかにかかるものではなく、雇用の理由が臨時的必要を充足するためのものかどうかによつて定まるものであつて、この見地から臨時工を類別すれば、(イ)一時的に作業量が増大する場合に、それを処理する必要から生ずるもの、(ロ)一定の仕事を一定の期間内に処理する必要から生ずるもの、(ハ)例えば試用工のごとく企業防衛の必要から生ずるものに分類されるであろう。そして、被申請人が製糖期に雇入れる臨時員は、製糖作業の開始による作業の増大に備え、これを処理するためのものであるのに反し、非製糖期の臨時員は、非製糖期の業務が次期製糖期における製糖作業を支障なく遂行するため機械の修理整備など施設の保全をなし、これを次期製糖の開始までに完了し、かつ、その状態を維持する必要から雇入れるものであつて、両者は雇傭の理由、目的を異にしている。従つて、非製糖期に雇入れた臨時員がたまたま製糖期において臨時員として雇傭されたとしても、前者は一定の仕事の完了のためであり、後者は作業量の増大によるものであるから、非製糖期になされた契約が製糖期の契約に更新されるのではなく、全然別個の契約として締結されるのである。申請人の場合も、全く同様であつて、申請人が正規社員と同一の恒常的業務に従事する臨時員であるから申請人との雇傭契約が当然に更新されると主張するのは、失当である。

(二)  昭和三七年一〇月一日以降申請人被申請人間に期間の定めのない雇傭契約が成立したことは否認する。非製糖期の期限が延長される事態の生ずることは契約締結の当初から当事者間に予想されていたことであつて、このことについては申請人も予め同意していたのである。従つて、仮りに九月三〇日を非製糖期における雇傭契約の終期と解しても、延長された期間はさらに申請人を雇傭する契約の存続期間を定めたものと解すべきであつて、申請人主張のように期間の定めのない契約が成立したものではない。

(三)  製糖期における申請人との雇傭契約の期限を製糖終了までとしたことが、被申請人において一方的に定めた無効の期限であるとの申請人の主張は否認する。製糖期における雇傭期間の満了が、製糖作業終了のときであることは、これまでも一般的に了知されていたところであつて、申請人もこのことを十分了承のうえ契約を締結しているのである。

(四)  製糖期または非製糖期に雇傭した臨時員につき、引続き契約が更新される慣行があること、申請人が右のような期待権を持ち、もしくは、契約更新の暗黙の合意が成立したとの申請人の主張事実は否認する。すでに述べたとおり、被申請人会社においては、臨時員につき期間の更新はしていない。

(五)  なお、昭和三八年一月一八日の通告が解雇であつたと仮定すれば、右通告はすなわち解雇予告に該当するのであるから、申請人の雇傭は同年二月一七日には有効に解雇されたことになる。

第七、証拠関係<省略>

理由

一、被申請人が、甜菜製糖を業とし、肩書地に本店、帯広市などに工場を有する会社であること、申請人が、昭和三七年三月五日被申請人会社帯広製糖所の従業員として雇傭され、工務課機械係電気掛に配属され、その後引続き同掛に勤務していたところ、被申請人が昭和三八年一月一八日の通告により、同月二四日限り申請人との雇傭関係が終了したものとしていることは、当事者間に争いがない。

二、申請人は、右通告を解雇の意思表示であるとなし、摘示のような理由により無効であると主張するのに対し、被申請人は雇傭期間が満了した旨主張するので、以下この点につき、順次判断する。

(一)  成立に争いのない疏乙第六ないし第九号証、証人西口恒弥、同能登谷勝広および同大朝陽一の各証言を総合すると、被申請人帯広製糖所はビートから砂糖を製造することを本来の、そして主たる業務とし(この点は当事者間に争いがない)、他にこれに付随する業務を行つているが、原料であるビートの供給、保管の問題から、機械設備を作動させて、製糖作業を行う期間は、例年一〇月上旬ないし同月下旬より翌年の一月下旬ないし二月上旬に限られ、その他の期間は、次期の製糖作業の準備として、機械設備の更新修繕などのために当てられていたこと、そして、製糖期の始期すなわち非製糖期の終期は、当該年度のビートの成育および集荷、機械設備の整備などの内外の状況を総合して決定されるため、その正確な期日は、約一か月前にならなければ判明せず、製糖期の終期すなわち非製糖期の始期は、同様にしてビートの集荷量、製糖作業の能率などから決定されるため、その正確な期日は、約一週間前にならなければ発表されないこと、同製糖所には正規従業員が約一七〇名いるほか、製糖期に、雇傭期間を製糖期とする臨時員を約三〇〇名雇い入れて、製糖作業の開始によつて増大する直接間接の業務を処理させ、また、非製糖期にも、正規従業員のみでは処理できない作業量のある部門に必要数の臨時員を雇い入れることがあり、いずれの場合の臨時員の採用も、同製糖所長の権限に属することなどが認められ、以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  つぎに成立に争いのない疏乙第一、二号証、同第四ないし第八号証、前記証人西口、同能登谷、同大朝の各証言並びに申請人本人尋問の結果(第一、二回)(ただし後記措信しない部分を除く)によれば、

(1)  被申請人会社帯広製糖所は、昭和三七年度非製糖期に入つて、昭和三五年に機械設備を更新した関係から、同期間中における工務課機械係電気掛のする機械設備の整備作業が予定人員だけでは完了できないことに気付き、急拠縁故関係を頼つて、同掛に配属させる臨時員を雇入れることにし、当時申請人の通学していた道立帯広柏葉高等学校定時制の教員のあつ旋で、申請人を非製糖期における臨時員として雇傭することになり、昭和三七年三月五日雇傭契約を締結したこと、そして、この契約における雇傭期間は、いちおう同日より昭和三七年九月三〇日迄とするが、作業が延引した場合は、作業終了まで雇傭期間を延長することになつていて、契約締結の際作成された契約書にもその旨記載されていたこと、

(2)  一方、被申請人会社帯広製糖所は、昭和三七年八月頃から、同年度製糖期に必要な臨時員の募集を始めていたが、製糖期の臨時員は、一般の応募者のほか、前年度製糖期に臨時員をしていて昭和三七年度製糖期にも臨時員となることを予定されていたものおよび昭和三七年度非製糖期に臨時員をしていて同年度製糖期にも引き続き臨時員をする意向を有するものから採用するのを通例としていたため、同年九月中旬頃同年度製糖作業が同年一〇月一八日と確定したのち、同年九月二七日申請人に対し雇傭契約請書なる書面を交付したところ、申請人もこれに署名押印し、同日申請人との間に、同年一〇月一八日以降同年度の製糖期における臨時員としての雇傭契約が締結され(同日雇傭契約が締結されたこと自体は当事者間に争いがない)、申請人は、同年一〇月一日以降も引続き従前と同様電気掛として勤務していたこと(この点は当事者間に争いがない)、

(3)  そして、同年九月二七日に締結された右雇傭契約の期間は、雇傭契約書に、予定として、昭和三八年一月三一日までと記載されてはいるが、これは製糖期終了時のいちおうの目安として示されたにすぎないものであつて、昭和三七年度製糖期の終了時を以て満了するものと定められていたこと、

(4)  被申請人会社帯広製糖所は、昭和三八年一月中旬頃、ビートの残存供給量と製糖作業の能率から、継続中の製糖作業が同月二四日完了するとの見通しを得、その頃、所内の掲示板に、製糖期終了にともなう臨時員の雇傭期間満了の日を、同月二四日を最後にして四段階にわけて発表し、また、労務係員が臨時員各人に面接して、雇傭期間満了の日を告げるとともに、雇傭関係の消滅に付随する事務手続をしたこと、申請人は、右の掲示によつて、必ずしも、自己の雇傭期間が満了したことを知るには至らなかつたけれども、同月一八日、労務係員に面接して、同月二四日かぎり雇傭期間が満了すると告げられ、右の事務手続をしたことおよび帯広製糖所の製糖作業は、同月二四日全部終了したこと、

以上の事実が認められ、申請人本人尋問の結果(第一、二回)中以上認定に抵触する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(三)  申請人は、昭和三七年三月五日締結された非製糖期の雇傭期限である同年九月三〇日以後期限を徒過したまま雇傭が継続されたので、同年一〇月一日以降申請人被申請人間には期間の定めのない雇傭契約が成立し、同年九月二七日締結された雇傭契約は無効である旨主張するが、前認定のとおり、同年三月五日の雇傭契約において、非製糖期の作業が延長した場合には作業終了まで雇傭期間が延長される旨予定されていたことおよび申請人は、右契約において定められたいちおうの雇傭期限である同年九月三〇日の直前に当る同月二七日に、同年一〇月一八日から開始される製糖期の臨時員たる雇傭契約を締結していることから考えると、申請人は、三月五日の雇傭契約の期間が同年一〇月一七日まで延長されることを了承したうえ、右の製糖期における臨時員としての雇傭契約を締結したものと認められるから、申請人の右主張は採用できない。

(四)  つぎに、申請人が、昭和三七年九月二七日に締結された雇傭契約の終期は昭和三八年一月三一日であつて、雇傭期間を製糖期の終了時とする不確定な雇傭期間の定めは無効であり、同月一八日の通告は解雇であると主張する点について考察してみると、なるほど、疏甲第二号証中には雇傭期間中に製糖作業が終了した場合は、解雇されても異議を申出ない旨一見申請人の主張を裏付るような記載がなされているが、右の記載は、同号証の他の記載部分と対照し、同号証の趣旨を全体として把握するとき、用語の不適切さは指摘できても、右記載部分だけから、雇傭期間が申請人主張どおりの確定期限であつたとは到底認め難い。しかして、雇傭契約において不確定な雇傭期間を定めることは必ずしも望ましいことではなく、場合によつては、期間の定めが無効となることも否定できないところであるが、一方、合理的な範囲内で当初には確定していない期限を付することが全く許されないとする理由はなく、本件においては、すでに認定したとおり、被申請人会社帯広製糖所における製糖期の終了は、年によつて一月下旬ないし二月上旬の間を変動しているのであるけれども、その変動の巾は大きいものではなく、しかも、それは使用者側の恣意によらず、ほとんど当地方における甜菜製糖の特殊事情に基く客観的な内外の情勢によつて決定され、このことは、被傭者側においても半ば公知の事実として了知されているところであるから、このような場合には、製糖作業の終了時を雇傭契約の終了時とすることは、有効になし得るものと解すべきであつて、申請人の右主張も採用することができない。

(五)  そうしてみると、申請人被申請人間の雇傭関係は、昭和三八年一月二四日期間の満了によつて消滅したことになる。

三、ところが、申請人は、申請人の雇傭契約は当然更新さるべきであると主張し、その理由として、申請人は、被申請人会社帯広製糖所の恒常的業務に従事する臨時員として雇傭されたものであつて、このような臨時員については、雇傭期間が更新される慣行があり、申請人には期待権、もしくは、期間の更新につき被申請人との暗黙の合意がある旨主張するので、この点について考察してみると、前顕疏乙第九号証、前記証人西口、同能登谷、同大朝の各証言並びに申請人本人尋問の結果(第一、二回)によれば、申請人の所属している工務課機械係電気掛は、製糖工場の維持、操業に必要な基幹的部門であり、製糖期においては、主として電気機器、配線等の保守点検に当り、非製糖期には、次期製糖期に備え、これらの解体、修繕等の整備作業に従事し、製糖期にのみ操業する製造部門と異なり、年間を通じて比較的恒常的な作業を行つていること、従つて同掛には、常に多少の異動はあつても、常時正規社員の補助者として臨時員が配属され、昭和三七年度においては、非製糖期製糖期を通じ、申請人の外三名の臨時員が配属されていたが、その中の一名は引続き三年以上臨時員をしており、申請人を除く他の二名は昭和三八年度非製糖期にも雇傭されている(但し、一名は運転掛として雇傭されている)こと、申請人は、電気技術を修得していて、ときには、正規従業員と同等の作業をしたこともあつたが、雇傭契約締結の際には、期間の点について深く考えることなく、漠然と他の臨時員と同様引続き雇傭されると考えていたことなどの事実が認められるけれども、他方、右各証拠により、被申請人会社の製糖作業が、甜菜の収穫に依存するという季節産業的特質から、電氣掛においても、製糖期非製糖期を通じ常に同数の臨時員を必要とするものとはいえず、各期の臨時員の必要数は、その都度作業量に応じて決定され、昭和三七年度の非製糖期においては、すでに認定した特殊の事情から、四名の臨時員を必要としたが、昭和三八年度の非製糖期においては二名の過員を生じ、一名は機械係運転掛として契約されたこと、右四名の臨時員中申請人は、僅かとはいえ、雇傭期間が最も短く、電気掛としての経験年数も浅かつたことおよび帯広製糖所において、電気掛を含めいわゆる基幹部門に配属された臨時員が引続き再雇傭される慣行があつたとは必ずしもいえないことなどの事実が認められ、以上の事実に、すでに認定した申請人被申請人間の雇傭契約締結の事情、契約の内容等を併せ考えると、本件において、申請人が雇傭契約の更新を受けることを保護するに足りる期待権を有し、もしくは、更新につき暗黙の合意が存在したものとは認め難く、他に、その存在を肯定するに足る十分な証拠はない。よつて、この点についての申請人の主張もまた採用することができない。

四、以上のとおりであるとすれば、申請人と被申請人との間の雇傭関係は、昭和三八年一月二四日期間の満了によつて終了し、申請人は被申請人会社の従業員たる資格を失うにいたつたのであるから、その地位を有することを前提とする申請人の本件仮処分申請は、その余の主張について判断するまでもなく、失当として却下を免れない。よつて、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおりに判決する。

(裁判官 下門祥人 丹野達 横田安弘)

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